研究概要 |
本研究は、高齢者の語想起能力とその低下のメカニズムを検討することを目的とする。加齢に伴い人名などの固有名詞が想起しにくくなると言われているが、これまでの語想起研究では、人名・地名などを含む広範なカテゴリーについて高齢者の語想起能力を調べた研究はなかった。そこで先行研究で、健常高齢者と若年者を対象に、語頭音、生物、人工物、人名,地名、抽象語など12領域に渡る48カテゴリーの語想起実験を行なった。その結果、高齢者は総じて若年者より語想起能力が低下し(若年群の平均75%の生成率)、特に人名が困難になること(若年群の約54%)、一方、若年者も一般名詞に比べ人名想起が相対的に困難になることがわかった。 今年度は,人名の想起困難の普遍性を検討するため,先行研究で用いた有名人カテゴリー4種(「政治家,女優、歌手・タレント、作家・詩人」)に加え,一般人名カテゴリー4種(「姓(名字),男の名前,歴史上の人物,物語の人物」)および,その他の固有名詞4種(「駅名,商品名,会社名,時代」)を含む合計40カテゴリーを用いて,若年者を対象に語想起実験を行なった。想起数は,有名人カテゴリーのみ減少し,一般人名やその他の固有名詞カテゴリーは語頭音や生物人工物などの想起数と変わらなかった。有名人の名前は,ある一定期間頻繁に使用されるものの永続性が少ない点で,累積的頻度や時系列上の親近性が低く,想起困難が生じやすいのかもしれない。一方,有名人に関する知識は,生物や人工物などの普通名詞や一般人名の知識に比べ,量が少なく共通性が低いため,語想起に際し参照されにくいのかもしれない。現在,後者の点を検討するため,生物や人工物などの普通名詞や人名に関する知識を書き出す実験を行い,データを分析している。次年度は引き続き,高齢者を対象とした語想起実験および知識を書き出す実験を行なう予定である。
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