研究概要 |
本研究では、海馬と解剖学的に密接な関係を持ち、多数刺激セット条件の視対象再認記憶に深く関わっている嗅周皮質が、少数刺激セット条件の再認記憶やtransverse patterning課題(TPT)のような、同一刺激が対呈示される刺激や試行によって意味那変わるいわゆる関係記憶・学習課題における役割を検討した。まず、少数刺激セット条件と多数刺激セット条件の対象遅延見本合わせ課題(それぞれDMS-S、DMS-Lと略す)の学習と遅延テストに及ぼすサル嗅周皮質摘除の効果を検討した。サルに術前開S-L、DMS-Sの順で学習訓練し、嗅周皮質摘除手術後、DMS-S,DMS-Lの順で課題を与えてその成績を健常統制群(N群)と比較した。摘除群は、DMS-SとDMS-Lの両方でその再学習と遅延テストで障害を示さなかった。今回嗅周皮質摘除によってDMS-Lが障害されなかったのは、ザルがDMS-Sを経験したことによりそのストラテジーでDMS-Lを解決したと考えられる。 TPTは、二者択一弁別事態においてA,B,Cという刺激セットが相手となる刺激によってその意味が変る(A+/B-,B+/C-,C+/A-)という学習課題である。この課題に対して、摘除群は試行制限内(75セッション)に学習することができず、障害を示した。しかし、その後与えた統制課題の6対の同時複式弁別学習では摘除群は障害を示さなかった。 本研究の結果、嗅周皮質はDMS-Sは関与しないが、TPTの学習に密接に関与することを示した。この結果は、海馬が関係連合課題とみなしうるDMS-Sに関与するが、TPTの学習に密接に関与しないことを示した我々の前の知見とは対照的である。TPTが構成連合課題か関係連合課題とみなすかは最近ずっと論争の種であった。TPTは、海馬損傷では障害を示さなかったので、関係連合課題よりはむしろ構成連合課題と考えられ、嗅周皮質はそれに関与することが示唆される。
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