研究概要 |
素朴生物学と素朴心理学の境界領域にかかわる諸現象を幼児がいかに理解しているかを調べるために、本年度は、病気への抵抗力の理解に関する実験を中心に行った。日常行動の身体的・生物学的側面(e.g.,野菜を食べる)と社会・心理的側面(e.g.,友だちをいじめる)のどちらが病気になりやすさに影響しているかを調べたこれまでの筆者の研究から、幼児では前者を重視する傾向があるとの結果が得られているが、これは、病気になりやすい選択肢を選択させた実験でみられただけで、その解釈には対立解釈の可能性が残っていた。そこで、実験1では、病気の例として風邪を用い、次の点を検討した。(1)幼児の場合、日常行動の身体的・生物学的側面(e.g.,野菜を食べる)は、道徳的意味ももっていることが多いので、これら2つを分離するために、病気になった理由として、生気論的理由と道徳的な理由の2つを提示し、そのうちの1つを選択させたとき、前者を一貫して選べるか、(2)風邪の発病、悪化、治癒に対して、一貫して同じ生物学的(生気論的)理由を適用しているか。さらに実験2では、病気の回復の理解に焦点を当て、(3)風邪と怪我とでは、回復に寄与する要因が同じと考えているかを検討した。その結果、次のことが明らかになった。 (1)説明を選択させる実験では、6歳の幼児は、発病に関しては、生気論的理由を道徳的理由より、よりもっともらしとして選択する傾向が見られ、日常活動の身体的要因が病気の抵抗力として寄与していることを理解していることが示された。 (2)説明を選択させる実験において、病気の抵抗力としての身体的要因は、発病には寄与すると理解しているが、病気の悪化や回復への寄与については、幼児の認識は明確ではなかった。 (3)実験2からは、病気と怪我の回復において、そこに寄与する要因を同じと捉えている傾向が見られた。
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