本研究では、一般的に対立すると考えられてきた「模倣」と「創造」の関係を問い直し、描画課題において、模倣が創造を促進する可能性を検討した。研究Iでは、大学院生を対象に「独自の絵」を描く課題を行った。描画の結果、素人の大人は独自の絵についてイメージを広げることができず、参加した8名中7名が写実的な絵を描いた。この結果から、大人は絵を描く際に、見たとおりに描くべきだと考える写実的制約を持っていることが示唆された。その上で、「模倣を通じて創造的な絵を生み出すことができるならば、そのプロセスとして写実的制約の緩和が生じる」との仮説が提案された。 研究IIでは、大学生を対象に独自の絵を描く課題を行った。その目的は、次の3点を検討することであった。(1)実際に模倣を通じて創造的な絵を描くことができるか。(2)もしそうであれば、創造的なプロセスとして、研究Iで提案された写実的制約の緩和が生じたのか。(3)制約の側面以外に、創造活動を促進する方略がみられるか。まず(1)について、画家の絵を模写した後で独自の絵を描く実験条件と、模写をすることなく独自の絵を描く統制条件を設定し、描かれた作品の創造性を評価した。その結果、模写を行った実験条件が統制条件よりも高い創造性得点を獲得した。このことから、他者作品の模写を通して、創造的な描画が可能となることが明らかになった。続いて(2)について、被験者が工夫した点、描画中に注意した方略、作品の内容の3つを指標として検討を行った。その結果、統制条件および模写を行う前の実験条件では写実的制約が強いことが確認され、いずれの指標においても、実験条件では模写後にその制約が緩和していることが示された。したがって、創造的な絵を生み出したプロセスとして、写実的制約の緩和が効果を示したことが明らかになった。(3)の問いに関しては、現在、検討している最中である。
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