研究概要 |
前年度,新たに開発した空問的視点取得能力測定用の実験課題によって,児童・成人・高齢者の当該能力を反応時間を中心的指標として試験的に測定したところ,高齢期に入っても空間的視点取得能力自体は衰えず,表面的な能力低下は他の情報処理能力の衰退に帰因するのではないかと考えられる結果を得ていた.また、児童期において指摘されてきた同能力の不完全さについても,視点取得能力自体が未完成であったためではなく,他の一般的認知能力に原因するのではないかと予想した. 本年度は,対象とする被験者数を十分なまでに増やし,これらの結果を追試・検証するとともに,空間的視点取得能力においていかなる生涯発達的変化がみられるのか,その個人差はどのようなものであるのかを検討することを目的とした.児童と大学生には個人的に協力を依頼し,高齢者はシルバー人材センターとの間で請負契約を結び,業務として実験に参加してもらうことで,各群15名の協力を得た.これらの者に対して,空間的視点取得課題と他の認知諸課題とを個別に実施した. 主な結果として,次の3つを得た. 1.年齢群間の比較から「空間的視点取得能力は児童期にはすでに備わり,高齢期になっても衰えは少ない」という昨年度の画期的な結果を追認した. 2.同じく年齢群間の比較から「高齢期にみられる空間的視点取得能力の低下は,他の空間認知能力や注意能力の低下によって説明できる」との仮説がより確かなものであることがわかった. 3.高学年児童が示す空間的視点取得能力の不完全さは,当該能力の不全よりも,むしろ一般的な情報処理能力におけるメタ認知的側面の弱さにあるとの示唆を得た.
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