児童、大学生、高齢者の空間的視点取得能力を独自に開発した課題により測定した。各10名の児童、大学生、高齢者に実験への参加協力を頂いた。彼らに、被験者正面を起点とする45度刻みの8箇所について視点取得することを求めた。被験者から視点取得すべき地点までの距離に対する平均反応時間の回帰直線の傾きは、年齢群問で差がなかった。一方平均反応時間は、大学生<児童<高齢者の順であった。仮想的自己の移動の不十分さを意味する「左右逆転エラー」がエラー総数に占める割合は、児童>大学生>高齢者の順に高かった。こうした結果より、高齢者の仮想的自己の移動機能は維持されていることが証明された。これは、空間的視点取得能力が高齢期に衰えるとする従来の常識を覆し、高齢期に入っても空間的視点取得能力が低下していないことを示す画期的な発見である。 さらに、児童や高齢者の空間的視点取得能力の特徴について検討した。空間的視点取得課題のほかにWISC-III課題や心的回転課題などをあわせて実施した。課題間の相関分析等より、高学年児童は他視点の取得能力を欠いているわけではなく、並列的な情報処理能力に特に未熟さが見られるのではないかと考えた。また高齢者は、思考の堅さと情報処理の正確さの点で大学生に較べて劣っており、これが従来の研究において高齢者の空間的視点取得能力が低下すると誤解されてきた原因であろうと考えた。こうした結果をもとに、空間的視点取得能力の生涯発達モデルを提案し、今後の研究の方向性を論じた。
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