研究概要 |
小・中学校期の高機能広汎性発達障害(以下,高機能PDD)児11名の心の理解について分析を行った。高機能PDD児は1次の誤信念課題(Baron-Cohenら,1985等)は通過した。「見る」-「知る」関係を正しく理解し,課題中の物語の登場人物の行動を正しく予測した。さらに,ほとんどの子どもが登場人物の行動予測の理由を正しく言及していた。しかし,1名だけ正しく言及できないものがいた。これまで,多くの研究が1次の誤信念課題についてなされてきたが,被験者の回答の質的分析はあまりなされてきていない。本研究から,被験者の回答の質的な分析の必要性が明らかとなった。また,Happe (1994)の心の理解課題(比喩・嘘・配慮・冗談・皮肉)についても,多くの子どもが課題中の物語の登場人物の言動の真偽を正しく判断できた。しかし,その真偽の判断は,事実と言動が異なっていることのみに言及したものが多かった。事実と言動が異なっている理由についての回答も小学校1-3年生の健常児の結果(花熊ら,2002)とは異なり,登場人物の心情を正しく推論できた者は中学生の1名のみであった。登場人物の言動の真偽の判断における健常児との違いが,発達的未熟性によるものか,高機能PDDに特異的なもであるかは,今回の研究では明かではない。しかし,多くの者が登場人物の言動の真偽を正しく判断できる一方で,判断の理由を心的なものに帰属できなかったり,誤って帰属することが高機能PDD児の社会適応の困難と関連していると思われた。
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