研究概要 |
抑うつや不安といった精神障害が注意にも影響を及ぼし、また注意に対して介入をかけることで改善へとつながるという指摘がある(Wells & Mathews,1994)。PTSD(外傷後ストレス障害)も不安障害の1つに数えられているが、DSM-IVによれば、その症状の特徴は、再体験、回避・麻痺、過覚醒の3つが上げられている。このうち、再体験と過覚醒は目の前の出来事への注意が阻害され、適応を悪くすることが考えられる。そこで、「今ここへの注意の配分(以下、今への注意)」、自己没入尺度といった注意の認知指標が、BDI、IES-Rといった標準化された病理の指標とどのような関係にあるかを検討した。 その結果、大学生341名(男:131名;女:198名;不明:12名;平均19.7歳;SD=1.81)と、一般人70名(男:24名;女:38名;不明:8名;平均35.6歳;SD=9.79)のデータから、BDIと今への注意はr=-.38(大)、-.56(般)、自己没入は.47、.53、IES-Rと今への注意は-.30、-.45、自己没入は.44、.52といずれも中程度の有意な相関値を得た。IES-Rを下位尺度で見ると、大学生、一般ともに回避が一番低く、再体験、過覚醒と相関が高くなっていった。 ステップワイズ法による重回帰分析を行うとIES-Rを説明するのに、BDI(β=.38)と自己没入(.34)が有意として選択された・さらに、BDIを説明するのに、注意指標(-.41)、再体験(.39)の2つが有意で、さらに、注意指標を説明するのに、過覚醒(-.40)とBDI(-.38)が選択された。 この結果は方向が入り組んでおり、単純な解釈は難しいが、過覚醒から注意の障害へ、それが抑うつへとつながり、最終的にPTSD症状につながっているといった可能性が考えられる。今後さらに検討が必要であろう。
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