PTSDの40歳男性の治療では、治療の前半11セッションで冤罪の記憶を扱い、8ヵ月後後半7セッションで親からの体罰、自傷の記憶について扱うことで改善した。IES-Rの下位尺度とセッション中に測定していた心拍数の推移(EMDRの評定前と処理開始時点と処理終了時点の3時点)から、全体の傾向としては心理尺度も生理尺度の右上がりの傾向が見られる。IES-Rの下位尺度では、冤罪の記憶では侵入が顕著で、子ども時代の体罰の記憶では回避・麻痺が顕著であることがわかる。冤罪記憶でフラッシュバック、パニック症状が激しかったことと対応しており、体罰・自傷の記憶では、現在の家庭場面が引き金となり得るために回避・麻痺が顕著になったと考えられる。心拍数の変化もこれを裏付けている。冤罪記憶のEMDR処理前半(3〜5セッション)では記憶に焦点を当てる前から高めの心拍数が、外傷記憶の想起によりさらに上昇するが、EMDR処理によって心拍数が低下する。処理後半(6セッション以降)では症状全般の軽快を反映して外傷記憶に焦点を当てる前から心拍数は低く、その後の変化はあまり一貫性が見られない。外傷的な記憶の想起に伴う生理的な反応を伴った再体験は処理の初期のセッションに起こり、後半はむしろ認知的な改善から回避行動の改善へつなげていくことが課題となると考えることができよう。体罰や自傷の記憶では侵入が主症状でなく、回避・麻痺症状が顕著であることと対応していると考えられよう。 BDIを含めてこれらの尺度間でのピアソンの積率相関係数を求めたところ、心拍数が侵入や過覚醒尺度との相関が高く、行動的な側面の回避・麻痺とは相関がやや低いのが特徴的である。IES-Rの下位尺度とともに、心拍数はPTSDクライエントの症状把握に役立つことが考えられる。 数唱では1〜5セッションにむけて、大きな改善が見られており、過覚醒症状との関連が想定できる。しかしその後、11セッション目にはかなりの逆戻りを見せており、やや解釈が難しい。 今後、ケースを増やしての検討が必要であろう。
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