研究I 地域のボランティアによる3群で外部刺激への持続的注意を調べた。3群はPTSD群、高ストレス群、健常群である。PTSD群はPTSD症状と外傷経験ともに持っている。高ストレス群はPTSD症状はあるが、外傷経験はない。健常群はいずれもない。 (1)外傷体験を経験しているPTSD群は、外部刺激へ注意を持続させる数唱課題得点が健常群および高ストレス群よりも低く、健常群と高ストレス群は数唱課題得点に差はなかった。 (2)現在への注意の主観的得点がPTSD群は高ストレス群よりも低く、高ストレス群は健常群より低かった。外傷経験のみがこの違いを説明するとは言えない。 研究II 注意、自己没入、PTSD症状、抑うつ症状を含んだ質問紙データに重回帰分析を適用した。564名の健常成人を対象とした。結果、過覚醒症状が注意指標を説明し、注意指標が抑うつ症状を説明し、再体験(侵入)症状は抑うつ症状を説明した。 研究III 10名のPTSDクライエントに対して3回のEMDR治療前後で持続的注意指標を測定した。数唱得点、現在への注意得点ともに上昇した。 研究IV EMDR治療によって改善した一人のPTSDクライエントにおいて、心拍数、外傷症状、注意指標の変化、関連を検討した。結果として、治療初期においては、過覚醒、侵入の改善に伴って、数唱得点の改善、外傷記憶想起時の心拍数のセッション内の低下が見られた。治療後半は回避が問題となり、心拍数との関連は見られなかった。 以上から、PTSDと注意、認知指標の関連が認められ、注意、認知指標がEMDRの治療メカニズムの解明にも有効であることが示唆された。
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