2つの実験的試みから得られた結果、すなわち理科(生物学)における進化と適応、新しい種の発生の概念理解を目指した教育活動の実験的組織化(小学校高学年対象:14年度〜15年度にかけて実施)から得られた結果、また、算数(数と計算領域)における異分母分数の加法の理解を題材とした実験的組織化(同じく小学校高学年対象:15年度〜16年度にかけて実施)から得られた結果を再分析し、理論的検討を行った。 前者においては、動物の進化および光合成についての理解が、適応的熟達化の認知的および社会的動機づけの諸原理に基づく短期の介入によりどのように質的に変化するかを検討した。とりわけ、介入の認知的基盤として子どもが持つ素朴生物学的因果を拡張すること、特に新しい種の出現を小さな変異の長期にわたる累積により説明するところに焦点を当てた。 また、後者においては、同じく分数の学習のための短期の介入の効果について再吟味した。とりわけ認知的基盤として手続き的知識と概念的知識の対応づけと、生活的な文脈への関連づけに焦点を当てた。 これらを通して、波多野の提唱した適応的熟達化の理論を精緻化するとともに、自主的かつゆっくりと進行する日常的認知分野での熟達化と、意図的・意識的に急激に再体制化が生じる学術的場面での熟達化の相違点についての理論化に力を注いだ。さらには、文化心理学的観点からの実践参加のもたらす効果と、それを制約する生得的原則や先行知識の役割の関係について考察を進めた。
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