適応的熟達者は、手続きの各ステップに意味を付与し、可能な選択肢から適切なものを選ぶ基準を提供する、詳細で正確な対象のメンタルモデルないしその構築を可能にする知識を持つことにより特徴づけられる。また、適応的熟達化のためには、動機づけ的な基盤として絶えず新奇な問題に遭遇すること、対話的相互作用に従事すること、緊急の(切迫した)外的な必要性から解放されていること、理解を重視するグループに所属していること、などの条件が必要である。 本研究では数学と科学の題材を取りあげ、適応的熟達化の諸原理にもとづいた教育活動を学校教育の文脈で組織化し、ここに挙げたような適応的熟達化の概念やそれを成り立たせる原則が役立つかどうかを検討した。 14年度と15年度においては、理科(生物学)における進化と適応、新しい種の発生の概念理解を目指した教育活動の実験的組織化を、小学校高学年を対象に実施した。また、15年度と16年度においては、算数における異分母分数の加法の理解を題材とした実験的組織化を、同じく小学校高学年を対象に実施した。 その結果、集団討論による対話的相互作用を通して社会的に動機づけられたときに、適応的熟達化の方向で理解が促進されることが、小学校高学年生においていずれの教育内容においても確認された。 今後は、他の教育内容、とりわけ社会科学的な知識を対象にして同様の成果を確認していくと同時に、異なった学齢、とりわけ適応的熟達化の文化的基盤の弱い中学校段階の学習者への応用的研究に従事することが必要である。
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