描画の評価に関してのこれまでの研究では、描画の全体的印象が重要であると繰り返し指摘されてきている。しかし、全体を評価する項目があまりに多くては利用することが難しい。いくつの項目で検討してゆくのが有用かということになる。われわれはこれまで活動性、写実性、整合性といった因子にまとめられる11項目を使用してきた。これらの項目は繰り返し使用され、その度に活動性、写実性、整合性の3因子の有用性が指摘されてきている。そこでこれら3因子を予後予測因子として使用することを考えた。そして、3因子を構成する項目を利用することで、描画の評価をおこない、描画間の関係を検討することにした。描画は15名の患者に対し、5回おこなわれた。1回目は入院1ヵ月後、2回目は入院2ヵ月後、3回目は入院5ヵ月後、4回目は2年目、5回目は5年目であった。3回目までは入院早期の時期であるが、この時期を過ぎてほとんどが退院する。しかしその後外来を継続できる群と再入院にいたる群とに分かれる。そこで外来群、再入院群といった予後を描画特徴のどのようなものが予測するかについて重回帰分析によって検討した。その結果、描画特徴を記述する活動性、写実性、整合性といった3つの因子のなかでは、特に写実性が、安定して次の時期の描画特徴を予測していた。そして1回目の写実性が、2回目、3回目、4回目、5回目のいずれの写実性も有意に予測した。この写実性について、外来群と再入院群について分けて検討してみると、外来群では経過の中で2度、再入院群では1度、それぞれ予測性が途切れることが明らかになった。外来群では入院直後と5年経過するころで予測性が失われた。2度予測性が失われることは、入院直後では入院ベースへの構えの変換が、5年目では入院から外来ベースへの構えの変換が起ったと想定した。それに対し再入院群では1度予測性が失われただけであり、構えの変換が一度起ったのみであった。外来で安定した通院を可能にしているのが入院から5年といった長い期間を通しておこなわれた構えの2つの変換と考えられた。
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