本研究は、カナダの学校教育プログラムRoots of Empathyを日本に導入する資料を得る目的で、創始者メアリー・ゴードン氏との契約に基づき、日本で実施したものである。本プログラムは、公立学校の学級に0才の赤ちゃんとその養育者を迎え、親子のコミュニケーションや赤ちゃんの発達の観察に基づき、生徒たちに赤ちゃんのケアについて考えることを通して、子育てに関する知識を学ばせると共に、他人を思いやる気持ちを育て他者への共感性をはぐくむというプログラムである。 2002年度から始まり、初年度は、実施協力者探し、教材・指導書等の翻訳、ブリティッシュコロンビア大学との共同研究計画、インストラクター養成、協力校探し、日本とカナダの文化差の検討などがなされた。2003年パイロット授業が開始され、同時に、参加者及び統制群に対して質問紙調査及び観察が行われた。11月にはゴードン氏が来日し視察すると共に、文部省などを訪れた。2003年12月にプログラムは完了し、実施結果に基づいた研究が2004年3月までなされた。 主な結果は以下の通り。 1.参加生徒たちの乳児の発達やケアの仕方に関する知識や向社会的行動は増加し定着した。感情についての学習が進んだ。 2.参加学級は、学級風土を向上・維持することができた。いじめ傾向の抑制や、学級の求心性の高まりが報告された。 3.担任は、実施を肯定的に評価した。 4.乳児親子は、参加が子育てにプラスであったと評価した。 5.保護者たちは、生徒たちの参加が成長に寄与したと評価した。 6.文化差を考慮したカリキュラムの変更の必要性が認められた。 7.インストラクター養成に関して、文化差に基づく課題が明らかになった。 8.日本の教育制度への適用の課題が明らかになった。 9.日加の連携上の課題や実施母体の確立の課題が明らかになり、アドバイザリーグループの必要性も示唆された。
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