研究概要 |
研究年次2年目にあたる本年度の研究では、前年度の成果を受け、以下の2点を目的とした。第1の目的は、前年度開発した自己価値性測度(self-value scale)の頑健性を検証することである。第2の目的は、権威の手続き的公正によって成員の自己価値感が高まること、さらには、高まった自己価値感が、権威ならびに他の集団成員に対する積極的な肯定的行動(サポート)に結びつく事実を示すことである。これらの目的のため、有権者700人を対象とした郵送配布訪問回収法による調査を実施。調査票には、(1)国政権威の手続きに関する評価、(2)自己価値測度、(3)権威に対する態度・行動、さらに、(4)他の集団成員(国民)に対する態度・行動を測定する指標が含まれていた。分析は、有効回収数441のうち欠損値を含んだケースを除き、401標本で実行した。第1の目的である、自己価値測度の検討のため、3つの下位概念「集団における存在意義(存在)」「成員としての自己受容(受容)」「成員としての主観的幸福(幸福)」を潜在変数とする2次因子モデルを検証的因子分析(CFA)で検討した。その結果、χ2値が非有意となり、モデルの適合が認められた(χ2=31.396,df=22,p<1.0)。負荷量は、存在γ=0.597,受容γ=0.795,幸福γ=0.855であった。本年度の解析では、存在と受容の観測変数のうち、それぞれ1変数が、他方の潜在変数からの影響をわずかながら受けていた。しかしながら、前年度のCFAとほぼ同様の結果が得られたことから、自己価値感の測度構成は成功したといえよう。第2の目的に関して、国政権威の手続き評価と、権威あるいは他の成員に対するサポート行動を自己価値性が媒介するモデル(self-value model)を検討した。モデルでは、サポート行動に至る心的過程として、手続き評価が直結するパスと、自己価値感を媒介するパスが設定された。SEM(構造法的式モデリング)による解析の結果、対権威・対他成員のいずれのモデルも適合的であった。主たる適合度指標は、対権威サポートに関するモデルで、CMIN/DF=2.135,GFI=0.944,CFI=0.971,RMSEA=0.053であった。対成員サポートでは、CMIN/DF=2.262,GFI=0.941,CFI=0.959,RMSEA=0.056であった。しかしながら、サポート行動に至る心的過程は、対権威と対成員で異なることが示された。対成員サポートでは、手続き的公正から自己価値感、さらに、自己価値感から支援行動に至るパスが有意に認められ、自己価値性の媒介が明らかになった。一方、対権威サポートでは、自己価値から支援に至るパスが非有意となり、手続き的公正が行動に直結していた。またここでも、手続き的公正から自己価値感に至るパスは有意に認められた。以上のことから、権威の手続きを公正と評価することは、成員の自己価値感を高め、高まった自己価値感は、他の成員に対する支援行動を動機づけるといえる。本年度の研究では、手続き的公正の自己価値性が示された。権威に対する自己価値性の媒介影響は、支援・評価の側面を構造化して捉えた上でのさらなる検討が必要であるといえる。
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