研究1では、心の理解についての文献を展望し、心の理解についてどのような理論的立場があるのかを考察した。その結果、セオリー理論とバイアス理論の2つの立場があることが明らかになった。セオリー理論では、4歳を節目として子どもは心を推測するための「心の理論」を形成することが仮定されている。他方、バイアス理論では、4歳以下の子どもであっても、基本的に心の推論をするための基本的能力を保持していることが仮定されている。特に、バイアス理論では作業記憶など情報処理の差によって発達差が解釈可能である。研究2では、心の推論課題については、性差が見られるかどうかを検討した。その結果、男児に比べ女児の方が、誤信念課題の正判断数は優れていた。しかし、反応時間については、性差は見られなかった。正判断数と反応時間の結果から、心を推測する能力について、表面的に性差は見られるが、能力の獲得について性差が見られるわけではないことを示唆している。むしろ、取得した能力を自発的に使うかどうかについて、性差が見られるのではないかと仮定された。研究3では、心の理論課題における日英の文化差について検討した。その結果、日本の子どもに比べ、英国の子どもの方が、誤信念課題の正判断数は有意に優れていた。研究4では、大学生の心の理解について、日英の文化差を比較検討した。すなわち、人は、「自分の知っている知識」と「他者から与えられた知識」のどちらに依存して判断するのかについて日英の文化差を比較検討した。その結果、英国の大学生は他者の知識に基づいて判断するのに対して、日本の大学生は自分の知っている知識に基づいて判断することが認められた。
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