研究概要 |
本研究は、研究計画最終年度前年度申請により採択されたものであり、前研究「価値としての公正:社会的同一視モデルによる分配結果と手続きの統合的研究(課題番号11610149)」を引き継ぎ、再構築を図るものである。心理的公正の検討は、司法・裁判場面から、日常的人間関係にいたる様々な場面でなされてきたが、国政場面での検討は、特に、「公正の機能」の問題を顕在化しうる。本研究では、国政場面における複数回の調査データを、構造法的式モデリング(SEM)を用いて解析することにより、国民の国政権威に対する公正知覚が、いかなる価値にもとづいてなされ、どのような行動と結びつくかを検討する。この目的の達成にあたり、本年度は、特に、権威の手続き的公正と国民の向集団行動との関係をモデル化し、解析した。モデル化にあたっては、まず、国民の向集団行動を「対権威行動」と「対他成員行動」に分け、さらに、それぞれを「主張性(assertiveness)」と「行動損失(cost)」の2次元で分類した。ここでの主張性とは、本来の役割を越えて行動しようとする積極性・自発性の程度を指す。その上で、向集団行動の生起に至る心的過程を、手続き的公正判断の1基準である関係性からの直接ルート、関係性・道具性によって判断された手続き的公正からのルート、国における社会的アイデンティティを媒介とするルートの3つに設定し、比較した。解析に使用されたのは、京都市有権者から得られた688件のデータである。その結果、低主張低損失の対権威行動に関するモデルを除くすべてのモデルで、適合が認められた(CMIN/DF=3.26-4.07,CFI=.950-.928)。さらに、3ルートの比較分析により、主張性の高い対権威行動では、手続き的公正ルートが最も有効であることが明らかにされた。また、他成員に対する行動では、一般的に、社会的アイデンティティ媒介ルートが有効であり、特に、国に対する愛着が、他の国民に対する高主張高損失の援助行動と結びつく事実が示された。
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