本研究の目的は、公正効果モデルを向集団行動において検討し、心理的公正および公正認知者の社会的アイデンティティの機能を明らかにすることである。本研究の特徴は、向集団行動を集団権威に対する支持行動と他の集団成員に対する支援行動に分離し、さらに主張性と損失の2次元で類型化したことである。加えて、モデルの心理的公正変数を手続き的公正、結果公正、要素公正と変化させた。これにより公正効果モデルの頑健性を示すとともに、向集団行動における心理的公正ならびに社会的アイデンティティの影響過程を明らかにした。研究1の目的は、関係性要因を含んだ手続き的公正の効果モデルにおいて、社会的アイデンティティの媒介有効性ならびに類型化された向集団行動への影響過程を明らかにすることであった。SEMにより解析された36モデルのうち34モデルが適合し、公正効果モデルは、集団内成員への幅広い支持支援行動の生起過程を記述しうることが示された。また、対権威支持行動では手続き的公正の直接効果が、対成員支援行動では直接効果に加えて、社会的アイデンティティを通じた間接効果が認められた。さらに、集団への愛着が最も有効な媒介変数であることが明らかにされた。研究2は、公正変数に国政権威の手続き的公正と結果公正を用い、モデルを検証した。その結果、対権威行動には公正直接効果が大きく貢献することが再度明らかになり、公正効果モデルの頑健性が示された。研究3では、新たな手続き的公正の概念を導入すべく、政策決定過程における要素に対する公正知覚を測定した。EFAおよびCFAの結果から相互作用公正および配慮公正と呼びうる2つの要素公正が認められた。前者は情報開示と発言、後者は説明の平易さと国民尊重からなる。これらの新概念を用いた公正効果モデルも適合したが、同時に、配慮公正では対権威支持行動においても愛着の媒介性が示された。
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