Higgins & May(2001)の先行研究によれば、北米文化圏においては社会化過程においてpromotion焦点化に力点が置かれ、何かを積極的に成し遂げることが自己価値を上昇させるような社会システムがある。事実、promotion得点と自尊感情との間に強い相関があるのに対し、promotion得点調整後のprevention得点と自尊感情の偏相関は有意でなくなる。他方、日本などアジアではprevention焦点化が奨励され、したがってそのような方向に動機づけられている人は、それを達成することによって自己価値を向上させていることが考えられる。そこで、Higginsら(2001)が開発した自己制御焦点スケールをバックトランスレーション法により目本語に翻訳し、日本語版自己制御焦点スケールを大学生と成人に実施した。その結果、大学生、成人ともにprevention焦点の相対的優位さが判明し、日本においてはpreventionがより重要な自己基準となっていることが見いだされた。また、大学生と成人が家族である場合は、焦点化が同じ方向にあり有意な相関がみられ、家庭内の社会化において、制御焦点が継承されていることが示唆された。自尊感情との関わりにおいては、大学生・成人ともに、promotion得点調整後のprevention得点と自尊感情得点(Rosenberg)との間の偏相関はいずれも有意となり、仮説どおり、日本においては失敗を回避することに動機づけられ、それが首尾よく達成されている場合には自尊感情が高くなる傾向が見いだされた。これまでの研究においては、方向の異なる2つの自己制御焦点を区別していなかったために、欧米パターンと同様、何かを成し遂げることこそ、自尊感情を高めることだと日本の研究は暗黙に仮定してきたが、この仮定は批判的に検証される必要があろう。
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