本研究の目的は、あいまいな社会的拒絶・排斥情報を受け取った時の反応、とくに対人関係への態度への効果を知覚者の自尊感情水準が媒介する、という仮説を検討することである。自尊感情は、単に特性のようなものとして個人に備わっているのではない。それは、個人が長年さまざまな対人関係を展開する中で、他者から受け取るさまざまな反応に基づき、自己が他者からどの程度受容されるか、どの程度関係を結ぶに値する人間とみなされているか、について形成してきた表象である。自尊感情の低い人は、これまでの対人関係の持ち方の個人的歴史から、他者から高い関係的評価を受け取ることに対して確信がもてない。したがって、曖昧な社会的排斥情報に接すると、自尊感情の高い人に比べて、自己に対する評価をより大きく低下させ、知覚した現下の関係的評価を別の対人相互作用場面にまで敷衍・一般化し、異なる他者からも否定的な関係評価が下されることを懸念して、対人相互作用に対して消極的になるのではないかと考えられる。実験では、自尊感情の高群と低群が、コンピュータによって統制されたボールゲームに参加した。56名の参加者のうち、約半数はあまりボールをまわしてもらえない社会的排斥群、残りの半数は定期的に参加機会を与えられる受容群に割り当てられ、ゲーム後さまざまな指標が測定された。その結果、自尊感情低群は高群に比べて、社会的排斥状況に直面した場合、自らの社会性評価を低下させ、将来の対人相互作用に対して消極的であり、さらには自分の友人や恋人の自分に対する対応にも疑念を抱いた。こうした結果に対して、特に自尊感情が低い人にとっての社会的排斥情報は社会的適応を形成していく上で見逃してはならない重大な意味をもつのではないかという点から考察が加えられた。
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