2年にわたる本研究の最大の目的は、理論社会学のメインテーマである秩序問題の研究を通して、「公共性」概念を社会学の立場から定式化することにある。そこで研究の初年度である今年度は、秩序問題について、学説史的・理論的な検討を加えた.具体的な課題と成果は次の3つである。 (1)パーソンズにおける秩序問題の展開 功利主義批判として秩序問題を考察したパーソンズが、主意主義的行為理論、機能主義的社会システム論を展開したことは、すぐれた成果であったが、彼の場合、規範の存在を所与として理論を構築しているため、規範(もしくは規則)の生成メカニズムそのものの説明がなされていないことが明らかになった。つまり秩序問題の考察では、規範(もしくは規則)の生成メカニズムの説明が重要な課題であることを明らかにした。 (2)ハーバーマスのコミュニケーション行為と秩序問題 ハーバーマスは、パーソンズの社会理論では、社会統合の問題とシステム統合の問題とがうまく架橋されていないとして、その原因をパーソンズが生活世界という視点を欠落させていることに求めている。ここからハーバーマスがコミュニケーション行為による秩序形成という構想を打ち出している点はすぐれていることが明らかになった。 (3)ギデンズの構造化理論と秩序問題 ハーバーマスもまた、パーソンズ同様、規範を所与のものとして理論を展開しているが、規範(もしくは規則)の生成メカニズムを考察する端緒として、ハーバーマスが重視する生活世界概念やギデンズいう実践的意識があることをつきとめた。生活世界もしくは実践的意識と統制的規則・構成的規則との関係を理論化することが、規範(もしくは規則)の生成メカニズムの定式化につながるし、<社会的なるもの>の出現を「公共性」との関係で理論化することが現代社会分析にとって重要であることが明らかになった。次年度は、社会秩序生成のメカニズムの精緻化を通して、「公共性」の社会学的定式化を試みる予定である。
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