2年にわたる本研究の最大の目的は、理論社会学のメインテーマである秩序問題の研究を通して、「公共性」概念を社会学の立場から定式化することにある。そこで研究の初年度である2002年度は、秩序問題について、学説史的・理論的な検討を加えた。 2年目である2003年度は、ロールズの『正義論』を基礎として、第1に「公共性」概念と「正義」概念との関連を、ヴィトゲンシュタイン、ハーバーマス、ハイエク、ブルデュー、フーコーの所説を参照しながら、検討した。第2に、日本社会の変動をふまえながら、戦後日本社会において「公共性」がどのように論じられてきたかを、さらには日本のフェミニズムが語ってきた正義は何だったのかを、歴史的にレビューした。第3に、公共性概念を日本社会にどのようにして立ち上げたらよいかについて、考察した。その結果、(1)公共性概念は、市民社会との関連で、市民的公共性として立ち上げられるべきこと、(2)<ネオリベラリズム-福祉国家>という文脈の中で、日本のこれまでの共同社会とは異なる共生社会を実現するためには、公共性概念が中核的な概念になるべきこと、(3)西欧出自の個人主義が「大衆的自我主義(エゴイズム)」に堕することがないようにするためには、「個人」、「自己決定」、「自己責任」といった概念のバージョンアップが必要であること、が明らかになった。
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