研究初年度であることから、以下の3点を基本とした研究を行った。 1.漁業生産構造の統計的把握:「漁業センサス」(第10次・平成10年)および行政資料によって対象事例地を含むやや広汎な地域における漁業の現況を分析するための基礎的データの集積。 2.青森県下北半島地域と陸奥湾沿岸地域の漁業および漁村の実態の理解:下北半島を事例対象地の1つに設定していることから、具体的な対象事例地域を絞り込むための前提作業としての下北地域全域および陸奥湾西岸の漁業構造と漁村についての実態把握を行った。 3.比較対象地域の漁業構造と地域的特質の認識:本研究が対象とする北東北3県(青森県・岩手県・秋田県)の漁業の比較として、北海道におけるホタテ養殖の現況を把握するため道南の噴火湾において調査を実施。また、イカ漁に関して山形県庄内浜から新潟県村上市に至る日本海沿岸の実態、三陸沿岸の養殖漁業の実態を捉えるため、宮城県石巻市から気仙沼市にかけて調査を実施した。 ところで、青森県陸奥湾沿岸および下北半島における漁業生産と地域構造の解明を行った結果、農林漁業における後継者不在・高齢化の進行という一般的傾向が、沿岸漁業・漁村においてはかなり深刻な状況にあることを指摘できる。青森県全体での漁業就業者における65歳以上の割合が23.6%であるのに対し、下北半島全域の平均が28.3%と高く、したがって、漁業の主たる担い手も60歳以上が大半である。つまり、男性高齢者とその配偶女性が沿岸漁業を担うという状況にあり、そのことが営まれる漁業の規定的条件となっている。下北半島のうち、延縄漁・イカ釣り漁主体の大間町・東通り村では比較的漁業後継者が残っているのに対し、それ以外の太平洋岸地域では小型定置網の共同や採貝・採草、陸奥湾沿岸の川内町・脇野沢村ではホタテ養殖と、高齢者の対応可能な漁業展開にあることが実態的にも明らかとなった。
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