産業が疲弊し、財政力が低下し、住民の福祉ニーズが超高齢化、高齢者のみの世帯化の進行とともに、生活のあらゆる局面に多様に析出している今日の中山間地域では、公的福祉システムを支えるサブシステムが極めて重要な位置を占めている。このシステムは三重層を成している。 その1つは家族生活のレベルにおける、「他出」した子と中山間地域に残存している高齢者とのあいだに成立している「拡大修正家族」の機能である。これは、実態的には、まさに中山同地域の老親を支える家族機能として機能しており、それを支援し、その機能を、考え方(互酬規範や社会規範)としても、社会機能としても、いかに公的地域福祉システムにリンクさせるかが課題となっている。 2つめは近隣・親族によるパーソナルネットワークの機能であり、これも、今日ではそれ自体が元来強い生活支援機能を持つものではなく、弱化しつつあるとはいえ、依然として広範かつ普遍的なセーフテイ・ネットとして重要な役割を果たしていることが確認された。 3つ目は各種の任意的な団体・グループなどによる自助的、互助的、社会貢献的活動の仕組みである。これは同じ中山間地域の町村であっても、地域差がみられる。それは、一言で表現すれば、住民の福祉意識の違いであり、またそれに強く影響を与えている行政や社会福祉協議会などの公的あるいは公共的地域福祉システムの成熟度の違いよるものと思われる。 いずれにしても、これらのサブシステムの機能は、地域の福祉ニーズの特性に対応し、住民の主体性に条件付けられたものである。その意味では、中山同地域の有限な社会資源と豊富なソーシャル・キャピタル(社会関係資本)を、長い伝統に依拠した地域の共同性を今日的な協働性に組み替える中で、いかに重層的な支えあいやまちづくり活動の中に取り込んでいくかが大きな課題となっている。そしてその際に、重要なのは、住民の感情としても、力量としても、公的福祉システムの機能・役割を明確にしたうえで、こうしたサブシステムの位置づけと役割を明確にすることである。そして、公・民の二分的思考から公民共同の「新しい公共」への住民の意識転換を図ることが、財政力が低く社会関係資本の蓄積された中山間地域の地域福祉システムの開発に不可欠であるといえる。
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