共同研究者フィリップ・テイラーとともに最新の研究情報の収集を行い、その成果を国際比較論文としてまとめた(雑誌論文参照)。その要旨は次のようである。高齢者就業雇用に関する公共政策が英日蘭で急速に進められており、政策手法上の差異はあるものの、総合的な政策アプローチによりアクティブ・エイジング社会の建設を目指す点では共通している。ただしその効果は未だ十分に発揮されていない。英国や豪州においては近年、高齢者に対する雇用差別禁止への取り組みが進んでいるが、雇用主の消極的態度に大きな変化は見られない。アクティブ・エイジング(活動的な老い)を単なるスローガンに終わらせないためには年齢差別を除去する有効な施策を強める必要がある。その際に留意すべきことは、特定年齢層の高齢者を雇用する場合に限って支給される雇用主への補助金のごとき雇用促進政策は、高齢者を特殊視することを助長し、政策目的に反して年齢差別を継続させる恐れがあることである。上記論文をふまえて、国際シンポジウム「高齢化・公共政策・仕事」(ケンブリッジ大学、2002年12月)に参加し、日本の高齢者就業雇用政策に関する研究発表を行うとともに、参加者との討論を通じて情報収集を行なった。参加者はOECD9カ国の大学・学術調査機関の研究者、政府とNGOの政策担当者、企業の労務担当者などの専門家40名であった。本研究テーマにとって重要な英蘭両国だけでなく、主要な先進国の専門家との情報交流の場となり、今後の研究遂行上、非常に有益であった。この討論の中で注目された点は、フィンランドが政労使一体の包括的・体系的な雇用差別禁止政策を展開し、参加者たちから非常に高い評価を受けたことである。英蘭両国ではアクティブ・エイジング社会の建設に向けて政策転換が開始されたものの、従来の早期退職から漸進的引退へのレジーム転換は容易でないとの示唆を得ることができた。
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