1.これまでの外国人犯罪裁判例の中から、司法通訳の正確性・公平性が問題となった事例を3件選び、その裁判記録の閲覧及び、当該事件における担当弁護人にインタビューを行うことによって、現在の我が国における司法過程における言語問題を探求する。但し、被告人・証人の供述調書、公判記録は全て日本語によって記述されており、被告人や通訳人の用いた言語(被告人の母語等)の具体的記録は残されていない。しかしながら、そうした限界はあっても、音声記録が入手できない現状においては、当該記録から得られる情報は大変重要な意義を持つと考えられる。(現在、裁判記録の閲覧は終了。弁護人へのインタビューは継続中。)以下において、対象となった事例についての通訳に関する部分を簡単に説明する。 (1)判決文中で法廷における通訳についてその正確性・公平さに疑問があるとされた事例。原審の手続きにおける通訳人が取り調べ段階と同じ通訳人であり、しかも残されていた判決宣告日におけるテープから判決の重要部分の訳をしていないことが判明。また、通訳人は北京語を話すが、被告人の母語である広東語は不得手であった。 (2)捜査段階及び公判段階において被告人らが理解でき、意思の疎通ができる言語によって公判審理を受けたか、通訳人の通訳能力、正確性に問題がなかったかに関して疑問が提出された。しかし、公判審理において用いられた通訳言語に対する被告人の理解力や公判審理が適切を欠くことはないとされ、また法廷通訳の一部に誤りがあるとしても、発問の仕方を変えて趣旨を確認するなどの是正措置が取られていることから、審理、判断に影響を及ぼすものではないとされた。 (3)捜査段階において被告人らの取り調べの通訳にあたった通訳人の適格性が争われた。公判においては、捜査段階で外国語を母国語とする通訳人に求められる日本語の習熟度や表現力また法律知識についての裁判所の判断が行われている。 2.本研究に関わる文献・資料の収集、及び関係学会・研究会等への出席、裁判傍聴等を行い、情報収集を行う。
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