本年度の研究課題は、(1)『沖縄研議会史』の資料整理と読解、(2)戦前のハンセン病経験者がおかれた現実の社会学的再構成、(3)「愛楽園」の子供たち、(4)「研究報告書」の作製、の4点であった。 課題(1)に関しては『沖縄研議会史』の資料整理を試みたが、沖縄の政治史に関する基礎知識を欠いたため読解を行なうまでには至らなかった。課題(2)に関しては、「沖縄の『特殊葬法』とハンセン病」(第62回西日本社会学会)、「沖縄社会とハンセン病問題」(第77回日本社会学会)の2本の学会発表を行ない、論文「沖縄社会の二つの葬祭儀礼」を上梓し、明治期から昭和初期にかけての沖縄のハンセン病死者の葬祭儀礼の実態から、ハンセン病患者がおかれた社会的現実の照射を試みた。課題(3)に関しては、ハンセン病の国立療養所「沖縄・愛楽園」で3回の社会調査を行なったが、論文化させるには至らなかった。 課題(4)に関しては、本年度が本研究の最終年度であるため、「研究報告書」を作製した。本研究では、経済や衛生など旧「沖縄縣」時代の社会的状況、ハンセン病患者の民間治療・葬祭儀礼の実態などから沖縄社会とハンセン病問題の関連性を捉えることにより、当時のハンセン病患者はシマ人としての成員資格を剥奪された所謂<生き死人>という象徴的な烙印を負わされた現実がみえてきた。さらに、この点から、当時のハンセン病患者にとって、「愛楽園」という<場>がもつ意味について考察し、入園後のキリスト教の信仰が、自らの生の<回生>の契機になったことを論証した。今後は、これまでに得られた「愛楽園」入園者の「語り」や関連資料をさらに掘り下げ、旧「沖縄縣」時代のハンセン病患者がおかれた社会的現実の、さらなる詳細な考察を試みるという課題がみえてきた。
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