本年度は当初の計画にしたがって関連文献を渉猟し、(1)デジタル化に備え積極的に事業展開をする南日本放送(鹿児島)などのローガル放送局への聞き取り調査の結果をまとめた。その後、オーストラリアの地上波デジタル化に関する文献資料を渉猟し、(2)本年度の調査地としてグィーンズランド州の州都ブリスベンとヴィクトリア州の州都メルボルンを選定した。ブリスベンは他に比べ経済成長率が高いこと、メンタリティとしては保守的な気風が残っていること、などの点から新しいメデイアの普及状況を見るには格好の土地柄だと判断したためである。 一方、メルボルンは調査を予定していた時期にブロードバンドの普及がめざましく、競合関係にあるブロードバンドの普及が地上波デジタルの普及にどう関係しているかをみるには格好の状況だと判断したからである。いずれの調査地でも一般の人々を対象に、デジタルテレビの所有の有無、デジタルテレビの利点をどう捉えているのか、購入意欲はあるのか、どのような条件を備えたとき、購入する気になるかといった視聴者の購入動機を中心とした聞き取り調査を行った。ブリスベンではメディアの動向に敏感な人々を中心に聞き取り調査を行い、メルボルンでは比較的経済的余裕のある人々を対象にした。いずれもビデオ取材に応じてくれる人を対象にしており、ブリスベンは7人、メルボルンでも7人であった。新聞や統計データを踏まえて聞き取り調査データを解釈した結果、以下のような知見を得た。 1.HDTV中心で展開されるオーストラリアのデジタル化政策に視聴者は疎外感を感じている。 2.高額なのに対応番組が少ないデジタルTVは媒体価値が希薄で、市場は萎縮し普及を阻んでいる。 3.DVDやブロードバンドをどパソコンベースのメディアの普及がめざましく地上波デジタルの存在感が希薄になっている。
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