14年度は長崎での放送を活用したビジネス展開、オーストラリアではデジタルテレビの普及状況を市民への聞き取り調査および統計データから把握した。15年度はその結果を踏まえつつ、三大都市圏で地上波デジタル化開始されるということもあったため、準キー局(大阪、名古屋)とテレビ東京への聞き取り調査を実施した。 すなわち、(1)中部日本放送(名古屋)、(2)毎日放送(大阪)、(3)テレビ東京(東京)のデジタル開発領域の担当者に聞き取り調査を行った。名古屋、大阪は東京に比べマーケットとして脆弱なため不安要素をかかえており、さまざまなビジネスモデルが模索されていた。東京ではデジタル放送が開始された直後に聞き取り調査を行ったが、民放はアナログ波との混信を避けるため出力を弱くしていたこともあって視聴者からの苦情が絶え間なかった。立ち上げの労苦は経営基盤の弱いところほど大きいというのが総じての印象であった。 さらに、15年度は、(1)ブリスベンでアボリジニ出身者に聞き取り調査を実施し、地域格差の何が問題なのかを尋ねたところ、教育機会の差異が生じるからだといわれた。そこで、(2)ヴィクトリア州を対象地区とし、州都メルボルン、地方都市バララット、田舎町メリバラ、さらに奥地、等々の出身者6人に聞き取り調査を実施した。その結果、地方都市でも情報インフラの整備されているところでは都会と遜色のない暮らしができることが確認された。教育機会も就業機会もショッピング機会も大きな差異はない。人々は満足して暮らしていたのである。また、(3)パースでも同様の聞き取り調査をした結果、オーストラリアでは農産物や鉱物を産出する地方を政治が保護しており、僻地でもないかぎり都会と大差ない情報環境だということが判明した。 本研究の期間中の知見は以下の通りである。 1.HDTV中心で展開されるオーストラリアのデジタル化政策に視聴者は疎外感を感じている。 2.高額なのに対応番組が少ないデジタルテレビは媒体価値が希薄で、市場は萎縮し、普及を阻んでいる。 3.DVDやブロードバンドなどパソコン系メディアの普及がめざましく、地上波デジタルの存在感が希薄である。 4.依然として地域格差はあるが、徐々に縮まっている。 5.情報インフラの整備された地域は地方でも都会と遜色のない生活ができる。 6.新規メディアの導入政策は長期的視点で行う必要があり、オーストラリアはかなり成功している。
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