(1)博物館の戦争展示と戦争の集合的記憶の関わりを考察するための理論的枠組みの検討を行なった(成果報告書「序「歴史の社会学」の可能性」「1記憶のトポグラフィー」『2社会変動のミクロロジー」参照)。アルヴァックス、ベンヤミン、シュッツらの業績の検討を通して、(1)記憶とは過去の出来事の再現であるのではなく、現在の視点から行なわれる過去の再構成であること、(2)過去の再構成が行なわれるさいに、物質や空間が重要な役割を果たしていることについての理論的見通しを得た。 (2)この理論的見通しをもって、(1)土浦市、(2)米国ワシントンD.C.、(3)広島市、(4)カンボジア・プノンペンにおいて、博物館の戦争展示と戦争の集合的記憶の関わりに関する調査を行なった(成果報告書「3歴史と集合的記憶」「4他者の場所」「5ヒロシマを歩く」「7モニュメントとしての写真」参照)。その結果、(1)土浦市においては土浦まちかど蔵の飛行船グラーフ・ツェッペリン号の飛来に関する展示が予科練の記憶を、(2)米国ではスミソニアン航空宇宙博物館に展示されたエノラ・ゲイの機体が原爆の記憶を、(3)広島市内のさまざまな資料館や記念碑、またさまざまな追悼行事が原爆の記憶を、(4)カンボジアにおいてはトゥール・スレン博物館の写真の展示がポルポト政権による虐殺の記憶を、それぞれ形成し再生産するうえで果たしている役割が確認された。 (3)とくに土浦市・広島市における調査によって、戦争の記憶が単一のものではなく、地域の内部でいくつにも分裂し、たがいに対抗し合い、「記憶のアリーナ」を形成していることを明らかにした。
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