15年度はSARSの影響により海外での調査日程が組みにくい状況が生じたため、14年度に十分な事例調査を行うことができなかった日本国内の地方自治体による地球温暖化対策の実態調査を主として実施した。調査対象とした事例は、(1)兵庫県宍粟郡一宮町の「森のゼロエミッション」事業、(2)岩手県岩手郡葛巻町の「葛巻町新エネルギービジョン」事業、(3)京都市の市民団体「京のアジェンダ21フォーラム」によって市に提案されている「京都市地球温暖化防止条例」策定をめざす市民-行政の協働提案プロジェクト、(4)一宮町と同じ兵庫県の「森のゼロエミッション」事業に取り組んでいる同県多可郡加美町丹治地区の、共有林における温暖化対策を付加価値としたユニークな「立木販売制度」事業(CO2吸収量に応じた木材価格設定)、(5)生活廃棄物と間伐材・林地残材など木質バイオマスを同時に処理することによって、独自の「地域内循環システム」を構築し、廃棄物対策と林業再生策と地球温暖化対策を地域内で一体化しようと試みている山梨県北都留郡小菅村の5事例である。これらの事例を詳細に調査した結果、様々な立場の市民・住民の創意が地球温暖化防止政策の形成に寄与していること、従来の行政主導型政策決定過程から市民・住民提案型へ、さらには、企業む含めた温暖化対策に関与するすべてのステークホルダーの水平的共生協力関係(synergy)の萌芽を示していること、そして、行政-住民間に、上位主体は下位主体のできる政策には介入せず、独自にできない政策にのみ支援するという意味での「補完制(サブシディアリティ)原則」が政策形成過程に導入される可能性が示唆されつつあること、などが明らかになった。一方、諸外国の地球温暖化防止政策については、京都議定書発効をめぐる主要諸国の動向を中心に情報・資料収集と文献研究を行った。
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