今年度は、実施計画の1)「現実世界の観察・観測など見る行為の構成についての調査」と、3)「ヴァーチャル・リアリティと視覚行為との関連についての分析」を行った。1)に関しては、現地調査を3回実施し、観察という見る行為がどのように構成されるかのデータの収集に努めた。これらデータの詳細な分析は次年度の課題となる。中心となったのは3)であり、この分析に当たり、単なる「テクスト・ベース」で行われるインターネット・リレー・チャットではなく、「グラフィック・ベース」で展開されている「こみゅー3D」に参加し、CGによりヴァーチャルに構成されている世界と我々人間の視覚行為との関連性を追求してみた。その際、主要な事柄として取り上げたのが「アバター」とよばれる自己の化身の構成である。現実の世界にいる我々が「身体」なくしては存在し得ないように、アバターはヴァーチャル・リアリティの内部に入る手立てであり、そこでの自らの存在を視覚的に確信させる道具としての意義を帯びている。この点を、現実世界における身体や身体表象の視覚の問題にまで遡り再考し、ヴァーチャル・リアリティでのアバターの身体性やその視覚と結びつけ検討を加えた。要は、アバターと現実の世界の我々がPCを通じてフィードバック・ループにより結合されることで、我々が動かす自己のヴァーチャルな身体表象は、現実の我々自らの意図の可視化であるけれども、この表象された身体の可視的意図性によって、再帰的にマウスの操作という現実の身体の動きは影響を受けることになり、現実の自分は自らが作り出した視覚的な表象により動かされるということである。身体と身体表象とのこの視覚上の再帰性は、身体への眼による表象の取り込みという「表象の体内化」という概念のもとで、さらに考察を加える価値があると思われる。
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