コンピュータ・スクリーンにおける現実とヴァーチャル・リアリティが織りなす円環性、スクリーンとの同期的でリアル・タイムなフィード・バックと結合は、人間を、他の意志から自由な存在、自らの人格と能力の所有者であることを否定させる「ポストヒューマン」にと仕立て上げる。この点を、まず「デジタル」と「ディアスポラ」、「ゲゼン」と「ジェンダー・ベンディング」の概念から捉え、流動化しハイブリッド化してゆくアイデンティティの問題に結びつけて考察を加えた。また、これを、本研究の中心的な課題として設定している「見ること」ないし「視覚」と関連させ、コンピューター上で展開される身体グラフィックスの観点から分析してみた。グラフィックスをベースにしたMOOいおいては、自己の身体を「アバター」として表象する。アバターというこのヴァーチャルな身体表象は、現実のわれわれ自らの意図の可視化であり、この表象された身体の可視的な意図性によって、逆に、現実のわれわれのマウス操作などの身体の動きが引き起こされる。現実の身体とヴァーチャルな身体表象は再帰的な関係に置かれ、身体が可視的に表象されるということは、表象が身体化されることに通じ、身体表象と身体存在とは強い結びつきをもたされることになり、われわれの現実の認知過程や身体性に深く関与し、アイデンティティの形成にも影響を与えるものと考えられる。さらに、アバターは「ヴァーチャルな視覚」をもち、スクリーンという隔壁を越え、自己をその内部に取り込む役割を果たし、生身のアナログ的視覚とアバターのデジタル的視覚とが一体化ポストヒューマンを生成する役割を果たすことになる。以上の内容を「ポストヒューマンへの道」において論じた。また、「円環の世界とヴァーチャル・パノラマ」では、ヴァーチャル・リアリティの形成の過程を、パノラマ・ビジョンに見られるの直接性の希求にもとづいて捉え論じた。
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