今年度は、「ヴァーチャル」であることと「アクチュアル」であることの比較と関係を「視覚」と結びつけることで主に取り上げ考察を行った。まず、「ヴァーチャル」と「アクチュアル」の理論的な区分を行い、これをもとに「アクチュアルーヴァーチャル」の軸と「可視-不可視」の軸とを交差させ、ヴァーチャルで不可視の存在からアクチュアルで不可視な存在に至る四象限を規定し、この分類に従って世界を捉えてみた。モナドとコンピュータにおいては、「記憶」や「メモリー」という不可視でヴァーチャルなものが、視覚表象という可視的でヴァーチャルなものに変じるだけなのであるが、人はこの不可視でヴァーチャルな事柄の「可視化」の過程を、まさに物事が眼の前に立ち現われるという感覚から、具体的な現実の事物への「アクチュアル化」と見間違えるのである。従って、アクチュアル化に見せ掛ける可視化、すなわち「擬制的アクチュアル化」とこれによりアクチュアルであるかのように生成される可視的ヴァーチャルが、ヴァーチャルの本質だといえる。次に、ヴァーチャルは、擬制的アクチュアル化を通じて、絶えずアクチュアルを目指し、アクチュアルであろうとすることによってヴァーチャルな状態を維持すると考え、絵画からコンピュータによるヴァーチャル・リアリティに至るまで、ヴァーチャルがアクチュアルに限りなく接近するための要件を考察した。この要件とは、「直接現前性」、「充実性」、「身体性」、「相互作用性」、「サイバー相互主観性」、「透明性」であり、これらが「ヴァーチャル・エポケー」を達成することでヴァーチャルな世界が生み出されることになる。この一端を論文「テクノロジーのイドラ「ヴァーチャル」-胡蝶から雀蜂へ-」で論じ、3年間の成果を、著書『視覚とヴァーチャルな世界』(仮題)にまとめる準備を進めている。
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