本研究の成果として、『社会秩序の起源』と題する書物の刊行を準備している。その概要を記す。社会学における一般理論は社会システム論がある。しかしシステムの概念は自然科学の分野でもそうだが、十分な一般性をもたない。むしろ物理学における場の概念と自己組織性すなわち非線形力学の理論が、社会に関する一般理論の基盤を提供すると考える。さらに、これまでの社会学的な理論には西欧固有の文化の影響が多大であったことも無視できない。20世紀後半の西欧思想の自己検討からも明らかなように、西欧思想は存在あるいは同一性の概念を核心として展開してきた。そしてこの存在=同一性の概念そのものに問題があることが示されたのである。世界を並立する存在の集合として記述する観点を離散体的世界観、世界を連続的な場の運動と見る見方を連続体的世界観とそれぞれ呼ぶなら、西欧思想は離散体的世界観によるものである。それに対して現代の自然科学とりわけ物理学の観点は力と場の概念による連続体的世界観である。本研究は社会についての連続体的世界観による一般理論を構築する作業である。デカルトの「われ思う、ゆえにわれあり」という命題は思考を主体とその存在へと還元するものだが、われわれは逆に主体とその存在を思考へと還元し、思考を力として把握する。物理学におけると同様に、この力はその周囲に場を生成させる。個人はコギト的な主体ではなく思考という力がチャージされた複雑な力学系として理解される。こうして社会は思考的な力のチャージとしての様々な力学系の間の相互作用と秩序形成の過程として理解される。この観点から社会的な秩序形成の一般的な構造を示したのが本研究である。
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