本研究の成果として、『社会秩序の起源』と題する書物を準備し、この秋頃には完成する予定である。その章立ては、1.存在と同一性、2.モーフォジェネシス、3.自己の起源、4.心の秩序、5.心のフィジックス、6.社会秩序の起源、7.力と自由、である。社会学ではすでに社会システム論が一般理論として存在するが、本研究は社会システム論に代わる一般理論の構築の試みである。社会システム論がその基盤とするシステム論に対して、本研究は物理学における非線形力学における複雑性あるいは自己組織性の概念を理論の基礎とする。また、システムの概念に対して現代物理学における場の概念を使用する。社会学は西欧起源の学であり、その思考は同一性の概念によって組み立てられている。周知のように20世紀の思想はこの同一性の概念に対する批判を中心として展開した。だが脱構築の思想に見られるように、同一性に対する代替案はいまだ提示されていない。私は自己組織性の概念が主体と同一性の思想に対する代替的な思想となると考える。自己組織性とは形態形成であるから、これをモーフォジェネシスと呼ぶ。本書はまず主体と同一性をめぐる現代の思想的状況を概観したのち、2において自己組織性の理論を定式化する。この応用として、3において生命の概念を検討する。そののちに心と動機付けの概念を、自己組織性の概念を使用して説明する。本研究は心は自己組織的に動機付けられる、という仮説から他の命題を演繹する、仮説・演繹型の理論として構築されている。
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