研究概要 |
社会福祉基礎構造改革のもとで、新しい社会福祉システムから取り残される可能性が高い高齢者や「判断能力が不十分」とされる人々の人権擁護を目的とする「地域福祉権利擁護事業」がその本来的機能を果たすための政策課題を検討するとき、わが国と同様に,90年代の社会福祉改革のもと社会福祉の規制緩和と社会福祉システムのあり方を模索しているスウェーデンの「実験」に学び、その「人権擁護システム」の理念・現状・課題とそこから教訓を引き出すことは重要な意味をもつと考える。 本調査研究の初年度に実施したわが国の地域福祉権利擁護事業の取り組み状況とスウェーデンにおける新しい高齢者福祉政策の動向調査をふまえて、本年度はスウェーデンにおける高齢者への質の高いケアとその権利擁護のためのシステムの仕組み・実情を把握することを目的として現地調査を実施した。具体的には(1)Socialstyrelsen(保健福祉庁)の保健福祉サービス担当者に面接し、'90年代以降のスウェーデンにおける社会福祉改革と高齢者の人権擁護への取り組み強化の背景、(2)スットクホルム・コミューンの「ケア監視員(インスペクター)」や「高齢者オンブズマン」などの人権擁護の担い手からは具体的な活動状況の聞き取り、(3)そして基礎自治体の取り組みとしてソーレンチューナ・コミューンの事例を検討した。これらのことからスウェーデンで取り組まれる「人権擁護」の実践はコミューンによって特色があり、一、二の事例をもって評価することは早計であり今後さらに綿密な調査計画のもとに研究・検討を継続する必要があると考えるが、その根底にある「理念」は、民営化のもとでの社会福祉の「公的責任」の再確認と人権擁護の取り組みはその具体化のための実践である、ということでは共通である。この基本的視点とそのシステムづくりへの取り組みからわが国が学ぶべき課題は多いと考える。
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