本年度は共同研究会を8回開催し、理論的な課題を整理・検討した。その成果は、1)木村洋一・池信敬子「ソシオンのネットワークと鏡像のコミュニケーション--密告・盗聴のモードをふくむ会話のマトリックス」(関西大学社会学部紀要34巻1号、45-97、2002年12月)、および2)木村洋二「ソシオンの一般理論(IV)--愛と欲望のキューブモデルとソシオネットの力学系」(関西大学社会学部紀要34巻1号、1-44、2002年12月)として公刊された。前者は、1人称(ワタシ)、2人称(アナタ)、3人称(カレ)のネットワークに、さらに「ダレカ」という不特定な他者いわば「4人称」の他者を加えることによって、「多重媒介モデル」のあたらしい展開を図ったものである。見えないダレカ、捉えられないダレカとのコミュニケーションが、密告や盗聴の問題と関連して、理論的にも、社会的にも重要な主題であることを確認することができた。「鬼ごっこ」や「かくれんぼ」は、子どもがこの見えない他者、捉えられない他者とのインターフェイスを学習する重要なシミュレーションの遊びであると見ることができる。アナタやカレ、ひいてはダレカがワタシのことをどう思っているか、鏡像の「多重媒介コミュニケーション」によって、自己像の「たらいまわし」と「撹乱」が発生すると考えられる。アイロニーやユーモア、「ダブルバインド」といった興味ぶかい問題群との接点が見えてきたが、その整理にはいますこしの時間が必要である。 以上はパーソナルなレベルのネットワークのコミュニケーション動作についての探求であるが、さらに共同研究の過程で、「ソシオン」(結合荷重の強度を学習する社会的ネットワークの結び目・変換素子)の基礎モデルを、複数の新聞間の「くり込み くり出し変換」による「世論形成」の記述・分析に応用できることがあきらかになった。すでに、「李登輝来日問題」をめぐる4大新聞の荷重報道の分析は一定の成果をあげている。次年度は、ソシオン理論のいっそうの精緻化を図るとともに、「拉致問題」をめぐる4大新聞の荷重報道の分析・研究にも挑戦してみたい。
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