研究概要 |
ソシオン(socion=socio+neuron)は社会的ネットワークの結節として個人や集団をとらえるわれわれの造語である。ソシオンは,コミュニケーションを通じて互いに信/不信の重みづけ(「荷重」)を学習して社会ネットワークを自己組織化する。「情報」は,「メッセージ」と「荷重」の積(情報=メッセージ×荷重)で定義される。荷重(semio-weight)は,出来事の重要性つまり主体がその出来事を受け止めるに際して必要な「予期ポテンシャル」の「強度」である。 本年度は,メッセージの内容そのものよりも,出来事の重要性(「荷重」)がどのように伝達されるのかに注目して,社会的コミュニケーションにおけるリアリティの多重媒介モデルの理論的定式化を試みた。伝達経路に介在する伝達者への「信頼」と「不信」の布置如何によって,出来事の大きさ=リアリティの強度(あるいは情報の信憑性)が「増幅」あるいは「減衰」される,という「荷重の媒介増幅仮説」が理論モデルの核心を構成する。新聞メディアにおける報道の荷重成分として,記事の「見出し」のワーディングとキーワードの大きさに注目して,その実証的分析を試みた.メディアが一群の出来事のなかから一定の出来事を選択する時,背後にどのような選択メカニズムが働くのか,またその選択した出来事の重要性をどのように表現するのか,その一般的な様式を分析する手法(報道荷重の「セミオグラフ」)を開発した。題材として,北朝鮮による「日本人拉致」問題についての4大新聞(朝日,産経,毎日,読売)の報道記事が,小泉訪朝時(2002年9月17日を挟んだ1か月間)に、どのような「見出し」内容と形式で報道されたかを比較分析した. また,マルチエージェント・システムによるソシオン・ネットワークの信頼学習シミュレーションについても、3者関係の基本動作について一定の成果を見た。
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