本研究においては、連帯の条件に関する数理モデルを構築するための端緒として、進化ゲーム論に注目した。メイナード=スミス流の進化ゲーム論は、古典的ゲーム論のようにプレイヤーに対し過度な「合理性」を前提とする必要のない点が強みである。しかしその反面、プレイヤーは与えられた戦略を盲目的に実行する「機械」のような存在としてとらえられる傾向にある。それに対し、プレイヤーの合理性の問題を重視し、「適応型学習」(adaptive learning)のアイディアにもとづく、新しいタイプの進化ゲーム論がある。そうしたゲーム論の一例として、「仮想プレイ」(fictitious play)に注目するP.H.ヤングの理論をとりあげた。検討の結果、かれの進化ゲーム論(最適反応ダイナミックス)は、(高次の)マルコフ連鎖モデルとして定式化されていることがわかった。 そうした議論を踏まえて、つぎにマルコフ連鎖に関する基本的な事項を確認することから始め、ゆらぎ(ないしはエラー)つきのマルコフ連鎖の考察へと論を進めた。ゆらぎつきのマルコフ連鎖においては、「確率的安定性」(stochastic stability)の概念が、重要となる。そしてその特殊なマルコフ連鎖のアイディアを、観察可能な変数と観察不可能な変数との区別を重視して構築された、優越関係のネットワークに関するファラロ=スクヴォレッツ・モデルに適用した。ファラロ=スクヴォレッツ・モデルでは、ヒエラルヒー型のネットワークとサイクル型のネットワークが吸収状態とされていた。しかしゆらぎつきのマルコフ連鎖モデルでは、ヒエラルヒー型のネットワークこそが「確率的に安定な」状態となることがわかった。
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