昨年度の調査報告で指摘したとおり、本研究の調査対象地域は、1990年代に急速に漁撈活動が活発になった地域であり、西ナイル地域からの移民であるアルル人が住民のほとんどを占めている。今回の調査では、こうして西ナイルから移動してきた人々の生活史に焦点を絞って聞き取り調査を行うことで、移動と漁撈活動が、親族関係のネットワークによって成り立っていること、移動が政治的社会的状況によって人々にやむなく選択されていることが明らかになった。 また、漁村社会における一般的な社会的経済的背景を把握するために、ウガンダ国におけるフィールド調査(平成16年2月8日〜3月9日)とともに、同じアフリカ大陸の漁業国であるガーナ共和国の漁村(平成3月10日〜3月27日)と日本国内の漁村(三重県熊野市)において聞き取り調査を行った(平成15年6月、9月、12月)。漁村社会における人々の日常的な活動が、たとえばガーナでは植民地時代における歴史的な民族の移動と、日本では200海里問題などの政治的問題と密接に関連していることが明らかになった。これらの調査結果より、当該地域の問題の一側面は、漁村社会に普遍的なものとして捉えることができる。 人々の生業としての漁撈活動が、外貨獲得・漁獲資源保護を目的とする政府の方針と齟齬を生み出すしている状況は、昨年と引き続き、本年度の調査においても変容していなかった。そこで、政府の政治方針を体現する立場にある地方行政を担う人々や漁業省の役人たちに聞き取り調査を行うことで、今後の漁撈活動の方向性を模索する作業を行った。来年度の調査研究においては、本年度得た資料をもとに、人々と湖のより良い関係がどのようにすれば構築できるのかを、村の人々や行政組織に所属する人々と共に話し合う予定である。
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