今年度は、教育機関をはじめとする非営利組織におけるマーケティングの適用を提唱したフィリップ・コトラーによる教育機関のマーケティング理論に焦点を当てた検討を行った。具体的には、彼の理論の中核に位置付くと思われる戦略的経営の枠組、公衆対応の技術に併せて、彼の理論発展の軌跡に焦点を当て、それらの論理と問題点に関する理論的な考究を行った。本年度の研究課題を上記のように定めたのは、アメリカにおける大学経営のマーケティング論がコトラーの理論に依拠して発展していったことに鑑み、来年度以降に本格的に実施するアメリカにおける大学経営マーケティング論を対象とした理論研究の分析枠組を、コトラー理論を手がかりとして手始めに構築することが必要と考えたためである。 得られた知見は下記のとおりである。1)コトラー理論における戦略的経営の理論枠組が「計画中心の戦略経営」の枠組であることから、「戦略計画論」の短所がそのまま彼の理論の問題点として指摘しうること、2)消費者の長期的な利益と社会の福祉を追及するといった教育機関の使命を果たすためには、彼自身が提示している「消費者誘導(market-driving)」の論理を、教育機関を対象としたマーケティング理論においても位置付ける必要があること。3)我が国における国立大学法人化構想の問題点に対しても、戦略的な経営の枠組を中心とするコトラー理論を手がかりとして、いくつかの示唆が得られたこと。 また本年度は、来年度以降に実施する理論研究の対象となる、アメリカで刊行された文献の収集を精力的に行った。
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