今年度は、(1)子どもの意見表明権の国連による理解の水準の分析、および、(2)子どもの意見表明権がカバーする子どもの学校参加に関わって、日本における学校参加に関わる法改正(学校運営協議会の任意設置等)の基礎にある新自由主義と、さらにその基礎にある権利観の特徴の分析を行なってきた。後者は、当初想定していなかったが、昨今の教育改革が広範な領域をカバーし、かつ、その基礎に重要な政治原理および教育原理を有しているために、学校における子どもの意見表明権実現への貢献度、そして、教育改革が基礎としている諸哲学と意見表明権が基礎にしている諸哲学との比較という、テーマが浮上することとなった。(1)に関しては、国連子どもの権利委員会が、日本政府第2回報告審査受けて採択した「最終所見」(CRC/C/15/Add.231(30 January 2004))に至るまで委員会の活動の包括的分析を行なった。委員会は、公私二分論に基づき、子どもとそれに直接接する大人との関係に対して法律不介入の原則を採用していたが、法律不介入原則が、大人と子どもとの間の"権力"的関係を放置するので、それを変更するものとして意見表明権があり、親子関係などにも意見表明権が及ぶことを是認する方向で動いている、ことが明らかになった。その成果の一端を論文として公表した。(2)に関しては、新自由主義の法制的意味を分析した論文を公表した後、その法哲学的および政治哲学的意味の分析を行なってきた。新自由主義もまたその基礎に置く権利意思説的権利論が、権利を国家の個人への干渉が行なわれた場合の個人による拒否を正当化するもの-"切り札としての権利"-としてのみ捉えているのに対して、本研究がその確立を意図している関係的権利論においては、複数の人間間における共同性の実現として権利を捉えていること-"構造としての権利"-がはっきりし、研究が飛躍的に進展することとなった。
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