本研究は、ジョン・デューイ教育理論の現代的意義を再考することによって、「教育の公共哲学」の構築をねらいとする。本年度の研究は、三年計画の初年度にあたり、デューイの公共的道徳的探究理論の特徴を解明することに焦点を当てた。デューイの探究理論の一般的特徴については、これまでも反省的思考の論理学的構造を中心に考察しており、「直観、観察、推断-推論、行動-観察」という基本的枠組みの働きについて分析した。また、実践的探究の特徴を検討するために、「行動的直観-直観的行動の反省」というD.ショーンの概念を援用して、状況における反省と制作の協働作用についても論及した。 第一に、探究理論と自己形成の関連について検討するため、経験に内蔵された反省と制作の協働作用・往還作用に焦点をあてて、「越境する自己」の構築過程を解明した。自己の経験を開くためには、「状況に織り込まれた知性」を育てるためのインタラクティブな関係の蓄積が必要であること、自己の経験の深まりを省察し文化的状況を構築する「反省-制作能力の往還作用」が必要であること、それに基づいて自己閉塞や拡散という現代的問題に対処するための「越境的想像力」の育成をめざすべきことを検討した。 第二に、デューイが自らの探究理論を現実の社会問題解決のために応用した事例として、第一次世界大戦時の「知性的平和主義」をめぐる論争を取り上げ、デューイの主張する「構築的知性主義」と、それを破壊的知性の一種であると批判するR.ボーンの立場を比較検討した。この研究では、ユートピア的ではなく、現実的かつ知性的な平和主義の理論を構築するために公共的な探究理論が果たす役割について検討した。
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