本研究の目的は、人権教育の他の近接領域との相関、並びに諸外国における人権教育の理論と実践を踏まえ、日本的性格及びその発展の展望を考察することにある。研究では、次の4つの観点からその検討を行った。第一に人権教育の国際的動向、第二に表現の自由、プライバシー、セルフ・エスティームなどをめぐる人権に関する議論の展開過程、第三に民族的マイノリティを中心とする集団的権利ならびに文化的自治権をめぐる動向、第四に日本の同和教育・人権教育の変遷、以上の4つである。前二者が人権の普遍性、個人主義的側面を追求する傾向が強いのに対して、後者の二つは対象グループと課題の限定と明確性を特徴とする。 まとめとして、以下の結論に至った。 人権教育は、日本的性格として次の特徴を持つと考えられる。 第一に、国民国家的発想の狭い枠での平等志向、 第二に、差別の強調とそれへの憤りと差別を無くす行動化を促す心情主義・行動主義的志向、 第三に、アイデンティティや思いの集団主義的志向、 第四に、教育・啓発による国民間の対立調整・社会連帯志向。 なお、人権教育の考察の軸として「価値・個人志向-課題・集団志向」、「関係重視-システム重視」の2軸を抽出し、「人権教育の布置構図」を提示した。日本の場合、「関係重視」の面が強く、また特定の「課題・集団」の問題に引きつけて議論されることが多い。その意味で、「社会学」的発想が強く、法学的発想に弱い面がある。 今後の日本の人権教育のあり方を考えた場合、より個人の尊厳と法・システムとの関係、エンパワメントを重視するプログラムのあり方の検討が必要である。その意味では、法教育や多文化教育などの関連する諸領域から学ぶことは多く、現実に様々な手法が導入されている。
|