研究概要 |
本研究は,医療・保健・福祉領域に主眼が置かれている高齢障害者支援の現状に対して,高齢障害者の「学習」の必要性と可能性を示し,具体的な支援を検討していくための基礎的研究である.本年度は,高齢障害者の活動の継続性と学習ニーズを説明するために個別ンタビューを実施し,帰納的方法を用いて分析を行った.対象は,介護老人保健施設2施設に入所中もしくは併設の通所リハビリテーションを利用している(1)60歳以上,(2)何らかの身体的障害を有し,(3)痴呆はあっても軽度でインタビューが可能,(4)研究協力の同意が得られた者である.その結果,男性15名,女性35名の50名が抽出された.平均年齢は77.8±8.5歳(60歳〜91歳),介護度は要支援から介護度であり,疾患名は脳血管障害16名,痴呆6名,大腿骨頚部骨折5名などであった.1名につき約60分のインタビューを実施し,活動歴ならびに学習歴と現在の生活状況,現在と近い将来の学習ニーズについて尋ねた.その結果,高齢障害者の活動の多くは,身体的機能の変化,自己効力感の低下,生活習慣の変化,交通手段をはじめとする物理的問題などによって継続が困難であった.しかし,昔にあこがれていた活動,経験があり「すき」だった活動は,支援者による遂行の手がかりによって開始・継続されていた.高齢障害者の学習ニーズとしてもっとも強かったものは,健康の維持・増進に関することであり,とくに身近な人に対して迷感をかけない生活の構築を望んでいた.また,人との交流,身近な他者への貢献のニーズも強かったが,とくべつの友人をのぞいて比較的健康な人々との交流を希望するものは少なかった.後期高齢障害者は,今まで「十分によくやってきた」として,遂行に関するニーズに変わり「統合」へのニーズが強まった.本研究には調査対象の一般性の問題を含むが,高齢障害者の個別のニーズを検討する重要性と学習支援のためのいくつかの提言が最後にまとめられた.
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