研究概要 |
平成15年度の研究実績としては,個人レベルでの日常的な研究の他に,二回の研究会(平成15年8月末,平成16年1月中旬)およびドイツへの研究調査(科研費による出張,平成16年1月)とイギリスへの研究調査二回(私費による研修,平成15年9月および同年12月)をあげることができる。研究代表者の山崎は,二回の私費イギリス研修において,(1)イギリスで最初に女性で教授職を得た,カーディフ大学のマッケンジー(Millicent Mackenzie)の自由思想に焦点を当て,彼女の研究業績からその理論を解明し,教員養成史研究においてなぜ彼女への着目が軽視されたかの原因を宗教的背景にあることを突き止め,(2)イギリスのオープンプランの源流Eveline Lowe Primary School(1966-)の子ども中心思想を解明し,そのネーミングの由来となったEveliene Loweと彼女の功績に関して,ケンブリッジ大学のHomerton Collegeにて調査をすすめ,彼女の思想が宗教的偏狭さを乗り越えるための教員養成観であることを解明した。研究分担者の山名と宮本は,ドイツとアメリカの19世紀終わりから20世紀初頭の教員養成と新教育の関係の史料分析を継続した。また,同・渡邊は主にフランクフルトのドイツ国際教育研究所とエール・エアケンシュヴィックの労働者青年運動文書館において資料調査を遂行し,ドイツの新教育運動期における「教職の専門分化」と「教育学の制度化」に関する資料を閲覧・収集した。とりわけ労働者青年運動文書館では,館長のハインリヒ・エッペ氏の手助けを借りながら,19世紀末から20世紀初頭にかけての労働者階級の青少年の生活状況や学習環境に関する資料を数多く閲覧するとともに,労働者青年運動の代表的雑誌である『指導者』(Der Fuhrer)や『労働者青年』(Arbeiter-Jugend)の記事を複写して持ち帰った。こうした資料は,当時のドイツで学校外青少年教育や青少年教護等に携わる教育福祉専門職が徐々に自律化するとともに,そのための学問として「社会的教育学」(Sozialpadagogik)が理論的に整備されていく背景を考察するうえで貴重であるため,現在その分析をすすめている。
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