研究概要 |
1,コミュニケーションモード:対象とした全ての子が幼少期から手指を併用したトータルコミュニケーションで人工内耳手術前から教育を受けていた。しかし、聴覚からの情報の受容が増えるにつれて聴覚への依存度が高まり、手指を使用しなくなっていった子が多かった。一方、装用1年目で聴覚への意識的使用が少ない教育環境下では、親の働きかけ方等を含め、手指への依存度が高く聴覚活用が進まなかった。係わりの上での検討が必要である。2,意味ネットワークの拡充は、手指(日本語対応手話)を利用しても必ずしも十分ではなかった。しかし、就学前後から就学初年度へかけて生活環境の著しい変化に伴い、言語概念にも拡がりが認められた。3,話しことばの習得状態:話しことばの明瞭さは、プロソディ、イントネーション、声の質、方言的いい回し等で著しく改善し、装用年数に比例して明瞭度が高くなった。特に就学前年から就学初年度に改善が著しかった。しかし、一部の音韻は歪みや置換のまま残った。4,聴覚学習への影響:反対側の補聴器は、人工内耳での聴取が高まるにつれて機能しなくなる傾向があった。補聴器の適用を低音域に限定するなど検討を要する。人工内耳での聴取能力は、全周波数帯域で25〜40dBの装用域値を得ることができた。これにより環境音の受聴能力および単語や文の聴取能力は著しく改善された。以上の結果から、コミュニケーションモードによって以下のように聴能の発達に影響を及ぼすことが明らかになった。1,教育側が意図に取り組まなければ、手話と聴覚コミュニケーションモードは互いに拮抗関係にある。2,聴覚を積極的に併用した場合、手指のみならず聴覚も十分に改善され得る可能性が高い。3,人工内耳装用児が周囲と係わる際に、聴覚的ニーズが高い場合には聴覚へ移行していくが、手指の使用が日常的になされている場合には、手指が優位になると推察された。
|