研究概要 |
(1)TIMSSビデオ(IEA国際教育到達度評価学会が実施した第3回国際数学・理科教育調査(TIMSS)の一環として撮影された日本、アメリカ、第8学年の数学の授業の,ビデオデータベース)を用いて、学習・教授メディアとしての文字言語の側面から分析指標の開発を行った。すなわち、日米それぞれふたつの授業について、音声言語と文字言語によるコミュニケーションを5秒ごとにつぎの観点からコード化した。(1)教師が音声を用いてコミュニケーションしているか否か、(2)教師が文字などの書かれた記号を用いてコミュニケーションしているか否か、(3)生徒が音声を用いてコミュニケーションしているか否か、(4)生徒の発言を補完するために、教師が文字などの書かれた記号を用いてコミュニケーションしているか否か、(5)生徒が文字などの書かれた記号を用いてコミュニケーションしているか否か。 その結果、日本の授業では教師がアメリカの倍以上の割合で黒板を使っていること、日本の教師が口頭で発話している際にも黒板を多用していること、生徒が口頭で発言している際に、日本の教師は黒板を補助的に使用していること、などが明らかとなり、今回試みた分析尺度を用いることによって、教授・学習メディアとしての板書等と音声言語使用からみた日本と外国の授業の特質を比較研究することができることが明らかになった(詳細は添田晴雄「教授・学習メディアとしての板書等と音声言語使用からみた授業文化比較の試み-TIMSS日米数学授業ビデオを手がかりに-」大阪市立大学大学院研究科『人文研究』第54号第3分冊、89〜111頁、平成15年12月、参照)。 (2)日本の小学校の授業をビデオ収録し、(1)で得た手法で分析し、日本の授業では、書くことの頻度が高く、授業の展開の核となっでいることが明らかとなった。 (3)イタリアの小学校、中学校、高等学校を訪問する機会を得、授業を観察した。中学校の国語(イタリア語)の授業では新聞記事を教材にしていていたが、教師をそれを配布せずもっぱら口頭で読み上げることにより提示し、それに基づき生徒と口頭で質疑応答を行なっていた。また、高等学校の定期試験、卒業資格試験においては、数学を含む教科で口述試験が行なわれており、通常の授業でも生徒が口頭で説明することに力点が置かれていることが確認された。 今回の研究計画・実施は国内研究に限定されていたが、上記と平成14年分の成果により、学習教授メディアとしての文字言語・音声言語の機能についての実証的日米比較研究おいて、今後、アメリカやイタリアの小・中・高校において授業をビデオ撮影して国際比較研究をする基盤が整ったと言える。
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