今日、学校教師としてのアイデンティティーの危機にさらされている教員が少なくない。現代社会の諸矛盾を具現化している児童・生徒の実態に対応できず、不適応やバーンアウト(燃え尽き)に瀕している教師たちも少なくない。その多くは、学級経営に困難を抱え、いわゆる学級崩壊や授業崩壊に直面し、その生存をも脅かすような激しい苦悩、葛藤、不安を抱え込んでいる。それが放置され、あるいは適切な対応が遅れることから、少なくない教師が、精神疾患を伴う病気休養や、退職や生存の危機に追い込まれていることは、昨今の各県教委レベルでの調査等でも明らかになりつつある。 この研究の目的は、こうした学校教師という職能(学校というシステムにおける生活指導や学習指導の専門的職能)に伴う苦悩、葛藤、不安に特有な心理構造を、関係性のシステムや社会文化的状況から多元的に分析し、精神的苦悩を抱えている教師たちへの危機介入及び日常的実践参画支援のプログラムを、具体的事例を対象化しながら臨床的に考察していくことである。 初年度は、内外の研究資料の収集・整理及び教育相談を試験的に実施した。まず、学校教育相談(教育学)に関する内外の研究文献の収集・整理し、武庫川女子大学、東京学芸大学等への資料収集の出張を行った。学校教育現場での事例検討会議(カンファレンス)を月例で実施し、VTR記録とactive interviewを試行した。そのさい児童・生徒及び学級構造分析と、生活指導・授業構想へも参加し、この過程でclinicalinterventionを実施した。また、臨床心理士資格を保有する学校カウンセラーと複数の学校教師と申請者によるVTR記録を媒介した多声的事例カンファレンスを実施し、本研究の基盤整備を行うことができた。
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